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*巡り来る春に*
著:神無月 リク
 どんなに今がつらくても、いつか必ず、その痛みが報われる日が来るんだよ。
 なんて言ったかな…?ああ、そうそう――


「ドンくさっ!」

エルミナはあきれ返った表情で、そう一言発した。
「よそ見してて派手にすっ転んだ挙句、足首捻挫だなんて、
今時よくそんな器用なマネができるもんだねぇ」

「うるせぇ…」
カウンターにひじを突いたザックが、やけに覇気のない声で言う。
褐色の瞳はどこか、遠くかなたを見ているようにうつろだった。

「……さっきからどうしたの?」
「何が?」
「何がって、あんたにしちゃあ、元気ないじゃないか」
ひょっとして怪我が痛いの?と尋ねるエルミナに、ザックは口の端を持ち上げて苦笑した。
「いんや、怪我はたいしたことねぇよ」
そう言って首を振った。

「じゃあどうしたんだよ」
「ちょっとした考え事だ。気にするな」
かたん、といすから立ち上がるザック。

「あ。どこ行くの?」
呼び止めるエルミナに、ザックはちらっとだけ振り返って、
「リハビリがてら散歩だよ。すぐ戻ってくるさ」

「――待って。あたしも行くよ」
エプロンをさっとはずし、彼の横に並んだ。
「おいおい。店番がいなくなっていいのかよ?」
「いいのいいの。どうせ夕方まで暇なんだし」
そう言って彼の背中を押した。

暖かく柔らかい風が頬をなでて、長い髪をすいていく。
最近の冷え込みが嘘のように一変して、春らしい顔を覗かせている。
水路に沿って植えられた桜並木の道を、二人は歩いていた。

無論、まだ花は咲いておらず、固いつぼみの姿でじっと時を待っていた。
昼過ぎとあって、子供の遊ぶ姿がちらほら見えた。
けれども、その陽気とは裏腹に、隣の表情はどこか暗い。

(…ホント、どうしたんだろ…)
宿を出てから一言も言葉を交わしていない、ザックの横顔を視線の端で捕らえながら、
エルミナはこっそりため息をついた。
なんとなくはわかっている。

何か悩みを抱えていても、他人に迷惑をかけたくないから、心配をかけたくないから、
そうやって黙っているのだと。
かえってそれが心配をかけていると、彼は気がついているのだろうか?

こんなに近くに――ほんのちょっと手を伸ばせばその腕に触れられるのに、
沈黙という見えない壁で、想いまで届かない。
その想いまで届くものは、やっぱり言葉なのだ。
どんなに相手のことを知っていても、理解していても、わからないことはある。

聞かなきゃいけない。
話さなきゃいけない。
そうしなければ……ずっとわからないまま。

「言わなきゃわかんないよ」
「え…?」
ポツリと発せられた言葉に、ザックは足を止めて彼女のほうを振り返った。

「黙って考え込んでたって、あたしにはあんたがどんな想いでいるのか、わかんないよ」
「お前が心配することじゃないって――」
「それを決めるのはあたしだよ。
あたしは、あんたのそうやって一人で何でも抱えちまう癖、見てらんないの」

見てると、こっちまでつらくなるから。
何も相談してくれないことが、悔しいから。
知らない間に距離を置かれているのが、寂しいから。

じっと見つめる空色の視線に耐えかねてか、ザックは重たげに口を開く。
「夢を見たんだ」
「……夢?」
「昔の夢――あの街で過ごしてたころの夢だ」

それはまだ城下でたむろっていたものもあれば、
フェンリルナイツとして仲間と過ごしたものもあった。
どれも、彼にとってはかけがえのない、故郷の想い出。
けれども今となっては、その想い出も雪と氷にうずもれ、彼の心の中にとどまるのみだ。

「そのせいかな。無性に帰りたくなったんだよ」
「でも、アークティカはもう……」
もう何年も前に魔族により破壊され、かけらも残っていない。
あるとすれば、半ば崩れかけた城がぽつねんと、だだっ広い雪原に佇んでいるくらいだ。

「だから、あの街を蘇らせたいんだ。時間も労力もかかるってわかってる。
成功するかもわからない。でもよ、もう俺しかいないんだよな…あの街を想う人間は」

あの混乱の中、生き延びたものはどれくらいいるのだろう?
運良く街を逃げ出せたとしても、外は猛烈な吹雪だった。
とても生きて別の土地へ逃げ延びた人間がいるとは思えない。
彼も運良くハンペンに出会わなかったら、そのまま凍死していたに違いないだろう。

「あんた…変なもん食べた?」
彼らしくない、珍しく筋の通った発言に、エルミナは違う意味で心配そうな声をかける。

「人がまじめな話してるときに、それはないだろ…」
「…だって、それが本当だったら…渡り鳥をやめちゃうって事だろ?そうしたら…そうしたら――」
あたしはどうなるの?

「まあ、まだ先の話だ。それまでに考えといてくれよ」
ザックは口の端を持ち上げて笑った。

「え?何を?」
「何をって、そりゃあ、あれだろ」
きょとん、とするエルミナの肩を抱く。

薄く頬を染めた彼女に、ザックは言った。
「俺のわがままに付き合ってくれるかどうかってことさ」
見つめる褐色の瞳はとても穏やかで、でも揺らぐことのないの意志の強さを秘めていて。
その奥底に眠る、深い想いを見出した気がした。

――決まっている。
言われなくたって、彼女の心は決まっているのだ。
もう一度『エルミナ』として生きることを決めた、その日から。

「わかってるくせに…」
彼女は甘えるように、彼の方に頭を預けた。

「付き合ってあげるよ。あんたはあたしがいないと何にも出来ないんだから」
「ガキじゃあるまいし、そいつはねぇだろ」
「いーや、絶対そう。あたしが言うんだもん。間違いないね」
ちろっと舌を出すエルミナに、ザックは彼女の跳ねた赤栗毛の頭を自分のほうへ引き寄せながら、

「…そーゆーことにしといてやるよ」
今はな、とつぶやくと、おもむろに彼女に唇を重ねた。
一瞬の口付け。

薄くどころか真っ赤になってしまった彼女を見下ろして、ザックはしてやったりとした顔で笑った。


どんなにつらく悲しいときがあっても、いつかそれは幸せに変わる日が来る。
それがいつなのかは、そのときにならなければわからない。
けれども、終わらない痛みはない。
そう、それと同じように終わらない冬はない。
いつか春は来るのだ。


冬きたりなば、春遠からじ、ってね。


そして、春は巡り来た――

神無月リクさんから『同盟・祭り・某所チャット・その他諸々でお世話になりっぱなしの、ザクエル好きさんなあの方に捧げます。
『私かッ?!』と心当たりのあるあなた、煮るなり焼くなり食うなり捨てるなり、ご自由にどうぞw』
俺かッ!?俺なんだなッ!?自惚れて良いんだなッ!?って事で拉致って来ました(笑)ウチ仕様に体裁を整えております
いやぁ〜何時かはアークティカ再建してくれッ!トカ冗談で思ったりもしましたが
私の想いが届いたのかしら? 二人でアークティカのアダムとイ(強制終了)(再起動)もぅ読んだ瞬間挿絵を絶対描こうッ!! と心に決めたトカ
喜々として描いた挿絵がソコですか? って感じで申し訳な…
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